多汗症
多汗症
多汗症(たかんしょう)は、暑いわけでも運動をしたわけでもないのに大量の汗をかいてしまう病気です。日常生活に支障をきたすようであれば専門医への受診がおすすめです。
症状
多汗症は、全身の汗が増加する「全身性多汗症」と、体の一部のみ汗が増加する「局所性多汗症」の2つに分けられます(1)。局所性多汗症は部位によって以下のような違いがあります。
- 頭部・顔面多汗症
男性に多く見られ、2~10年以上の長期間持続します。ストレスだけでなく、熱い食べものや飲みものも悪化要因となります。一度の発汗は通常数分間でおさまりますが、数時間から一日中続く場合もあります。 - 掌蹠多汗症
掌蹠(しょうせき)は手のひらと足のうらのことです。幼小児期もしく思春期に発症し、精神的な緊張があったときに手足に多量の発汗が見られます。症状が重い方では、手足が絶えず湿って冷たい状態となります。汗の量は昼間に多く、寝ている間は汗が止まるのが特徴です。冬に比べると夏の方が多くなります。 - 腋窩多汗症
左右対称にわきの下の発汗が多くなります。緊張やストレスなどの精神的な刺激と、気候や運動などの温熱性の刺激、両方が悪化要因となります。
原因
多汗症はとくに原因がないタイプが多いとされていますが、全身性多汗症では結核などの感染症や甲状腺機能亢進症、神経疾患、薬剤などによるものが知られています。また局所性多汗症でも、手術や外傷などが原因となる場合があります。
検査
診察だけで診断することが一般的ですが、ヨード紙法や重量計測法といった方法で発汗量を測定する場合もあります。全身性多汗症の方では、ほかの病気が隠れていないかどうか確認するために血液検査なども行うことがあります。
治療
- 塩化アルミニウム外用剤
塩化アルミニウムの外用は、日本皮膚科学会の診療ガイドラインにおいて、全ての部位の多汗症に対しまず行ってよい治療とされています。塩化アルミニウム外用剤は市販されているものもありますが、市販薬は濃度が薄いため効果も弱いのが実情です。当院では濃度20%と40%の塩化アルミニウム液をご用意しておりますので、2~4週間ほどの外用で効果が期待できます。
また当院では硫酸アルミニウムカリウム外用剤であるD-tubeも販売しております。こちらはクリームタイプで塗りやすく、皮膚への刺激も少ないため、わきの下などにとくにお勧めです。 - エクロックゲル、ラピフォートワイプ
エクロックゲルは2020年11月に、ラピフォートワイプは2022年5月に発売された腋窩多汗症に対する外用薬です。発汗を促す神経伝達物質であるアセチルコリンを阻害する作用(抗コリン作用)を持ちます。3割負担の方で2週間分1100円とやや高額ではあるものの、塩化アルミニウムでは皮膚が荒れてしまう方や効果が不十分な方にお勧めです。抗コリン作用を有する薬剤のため、緑内障や前立腺肥大をお持ちの方は注意が必要です。 - アポハイドローション
2023年6月に発売された手掌多汗症に対する外用薬です。エクロックゲルやラピフォートワイプと同様、発汗を促す神経伝達物質であるアセチルコリンを阻害する作用(抗コリン作用)を持ちます。3割負担の方で1週間分700円とやや高額ではあるものの、塩化アルミニウムでは皮膚が荒れてしまう方や効果が不十分な方にお勧めです。抗コリン作用を有する薬剤のため、緑内障や前立腺肥大をお持ちの方は注意が必要です。 - 水道水イオントフォレーシス
掌蹠多汗症に対して非常に有効な治療法です。手のひら、足のうらを水道水が入った容器の中に浸し、5~20mAの直流電流を流します。1回20分ほどの通電を週1~2回のペースで行います。5~10回ほど行うと多くの方が効果を実感できます。汗が出なくなった後は、効果を維持するために2~3週間に1回ほど行うのが理想的です。>>くわしくはこちら - ボツリヌス毒素製剤の局所注射
腋窩多汗症に対して国内外で推奨されている治療法です。A型ボツリヌス毒素製剤を20~30か所に分けて注射します。効果は通常、注射後2~3日で見られ、1~2週ほどで安定します。持続期間が4~9か月ほどあるため、夏前に注射をすれば、その年の夏は症状をほとんど気にすることなく過ごすことができます。 - 内服療法
ほかの治療法に比べると有効率が低いものの、副作用も比較的少ないのがポイントです。とくに頭部・顔面多汗症ではイオントフォレーシスや局所注射が難しいため、積極的に試してみる価値があります。代表的な薬剤としてプロバンサイン(抗コリン薬)、グランダキシン(自律神経調整薬)などが挙げられます。 - 交感神経遮断術
汗をコントロールしている神経を手術で遮断する治療法です。主に手のひらの多汗症に有効で、効果が非常に高いものの、代償性発汗と呼ばれる副作用が高い確率で起きます。背中・お腹などの汗が逆に増えてしまうため、手術を受けるかどうかは慎重に考える必要があります。ほかの治療法では効果がなく、手術を希望される方は他院へご紹介させていただきます。
<文献>
(1) 原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版. 日皮会誌. 2023;133:157-88.