アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎とは

私自身幼少時からアトピー性皮膚炎を患っており、二十歳すぎには治療を怠ったことで入院しなければならないほど悪化させてしまったこともありました。現在は症状が落ち着いているため、患者さまにお伝えすると驚かれますが、完治したわけではありません。

アトピー性皮膚炎は、その時の症状に応じたスキンケアや外用・内服治療を行うことで、良い状態を保つことを目指す病気です。とくにお子様では、良い状態を保つことで薬が必要なくなることも多いため、症状が落ち着くまでは定期的な通院をおすすめしています。

症状

  • 乳児期~幼児期
    大人に比べて皮膚が薄く、乳児湿疹や脂漏性皮膚炎などさまざまな皮膚トラブルが見られるため、簡単にアトピー性皮膚炎と診断することはできません。独特の乾いた皮膚(atopic skin)や、おむつが当たる部分はかえって湿疹が少ないなどの特徴があります。口のまわり、頬(ほお)、頭にジクジクとした湿疹を生じることが多いです。
  • 幼児期~思春期
    肘や膝など関節の内側を中心に湿疹が見られ、耳たぶの下が裂けるような症状(耳切れ)もよく見られます。乾燥症状もはっきりしてきます。
  • 思春期以後
    湿潤型の発疹は少なくなり、思春期以降は乾燥型の慢性湿疹を広範囲に生じることが多くなります。思春期以降の特徴として頭皮にフケが出るケースが多いです。また、眉毛の外側が薄くなる「ヘルトゲ徴候」、首にさざ波のような色素沈着を生じる「ダーティーネック」、炎症が慢性化して皮膚が次第に厚くなる「苔癬化」、しこり状の発疹である「結節性痒疹」、皮膚を引っかくと、しばらくして引っかいたところが白くなる「白色皮膚描記症」、など特徴ある所見が見られます。

原因

アトピー性皮膚炎は、皮膚の乾燥によるバリア機能異常に加え、さまざまな刺激反応およびアレルギー反応が関与して生じます。慢性に経過する炎症とかゆみをその病態とし、患者さまの多くはアトピー素因を持ちます。

  1. かゆみ
  2. 特徴的な発疹とその分布
  3. 慢性・反復性の経過

日本皮膚科学会の診断基準(1)では、上記3つすべて当てはまるものをいいます。

アトピー素因とは家族歴・既往歴(気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちいずれか、あるいは複数の病気)があること、もしくはIgE 抗体を産生しやすい体質のことです。

最近、アトピー性皮膚炎の方の多くが、遺伝的に皮膚の保湿因子の遺伝子異常があることが分かり、保湿の重要性が再認識されてきています。

検査

乳幼児では、食物アレルギーが悪化要因となっていることがあるため、疑われる場合には血液検査やプリックテストを行うことがあります。食物負荷試験など詳しい検査が必要と考えられる場合には大病院へご紹介いたします。

思春期以降は、空気中のアレルギー物質(ホコリ、ダニ、花粉など)が原因となっていることがほとんどですが、患者さまによって原因物質が異なります。自分がどのような物質に反応しているのかを知ることで対策をたてることができるため、一度は血液検査を受けていただくのがおすすめです。

また、アトピー性皮膚炎の重症度を客観的に確認する血液検査項目としては、好酸球・LDH・IgEなどが知られていますが、これらの項目は数値が変化するのに時間がかかります。症状の変化ともっともよく一致するのは「TARC」(2)という項目です。治療により症状が落ち着いたからといって薬を減量・中止すると症状がぶり返してしまう方が時々いらっしゃいますが、そういう方はTARCの値が十分に低下していないことが多いと言われています。症状が落ち着いたとする一つの目安は「500pg/ml以下」ですので、数値がそこまで下がった時点で薬を減量・中止すればぶり返しを防ぐことができます。

治療

炎症をおさえる

アトピー性皮膚炎の方は、もともと皮膚のバリア機能が低下していますが、炎症を起こすとバリア機能はさらに低下してしまいます。バリア機能が低下すると、さまざまな刺激に弱くなり、さらに炎症がひどくなるという悪循環におちいってしまいます。炎症が強い場合、スキンケアや環境改善だけでは、この悪循環を断ち切ることは困難です。炎症が落ち着くまでは、その程度に応じた外用・内服薬が必要になります。

  • ステロイド外用薬
    ステロイドは副腎皮質ホルモンとも呼ばれ、炎症をおさえる作用があります。ステロイド外用薬にはさまざまな強さのものがあり、炎症の程度や部位に応じて最適なものを選択します。同じ部位に長期間塗り続けると、皮膚が薄くなったり毛細血管が拡張したりする副作用を生じることがあります。当院では不必要なステロイド外用薬は使いませんが、メリットがデメリットを上回ると判断した場合は患者さまにご説明した上で、処方しております。
  • プロトピック軟膏
    ステロイドと同じように炎症をおさえる作用がある外用薬です。皮膚が薄くなったり毛細血管が拡張したりする副作用がほとんどないため、長期的に使用することができます。とくに顔・首ではステロイドの副作用が出やすいため、プロトピック軟膏で症状をコントロールするのが理想的です。プロトピック軟膏は欠点として、外用し始めの数日間、チクチクとした刺激感を生じることがあります。このチクチク感が我慢できない方や、かえってかゆくなるような方には局所の副作用が少ない弱いランクのステロイド軟膏を使います。
  • アズノール軟膏
    非ステロイド系の外用薬です。炎症が軽い方(とくにお子様)では、正しいスキンケアとあわせて使用することにより症状を落ち着かせることができます。
  • 亜鉛華軟膏
    ジュクジュクとした湿疹を乾かし、皮膚を保護する作用がある外用薬です。湿疹がひどい場合に、「リント布」というガーゼに亜鉛華軟膏を伸ばしたものを貼ると効果的です。先にステロイド外用薬を塗布してから貼るとさらに治療効果が高くなります。亜鉛華軟膏は普通に石鹸で洗っても落ちにくいのが欠点ですが、オリーブ油を染み込ませた布でいったん拭き取った後に石鹸で洗っていただくと綺麗に落とすことができます。
  • 抗アレルギー薬・抗ヒスタミン薬
    就寝中は副交感神経が優位になるため、かゆみの程度が強くなります。かきこわして悪化させてしまうことを防ぐために、かゆみ止めの内服薬として抗アレルギー薬を処方することがあります。抗アレルギー薬にはほとんど副作用はありませんが、昼間に眠気を生じる場合があります。その場合には種類を変えて患者さまに合うものを探します。抗アレルギー薬には皮膚炎をおさえる作用もあり、症状が落ち着いた後も内服を続けることで、症状のぶり返しを減らす効果もあります。抗ヒスタミン薬は同様の内服薬ですが、昔ながらの薬であり、眠気が強く出る場合があります。
    IgEが高値の患者さまではアイピーディが有効な場合があります。アイピーディは眠気などもほとんど生じない内服薬ですが、効果が出るまで1~数ヵ月かかることがあります。
  • ネオーラル(シクロスポリン)
    ネオーラルは免疫にかかわるTリンパ球(白血球の一種)に作用し、異常な免疫反応をおさえる内服薬です。もともと腎移植や骨髄移植などに使用するために開発されましたが、現在ではさまざまな病気に対し、世界中の多くの国で使われています。ほかの病気では長期間に渡って内服する場合もありますが、アトピー性皮膚炎の方は短期間でも効果が見られるため、長くても3ヵ月間までの内服とするのが一般的です。
    副作用として高血圧と腎障害が比較的多いですが、早期に発見すれば、ネオーラルを減量もしくは中止することで、回復することがほとんどです。1ヵ月に1回、血圧測定と血液検査をしておくと安心です。飲み合わせが悪い薬がいくつかあり、リバロ・クレストール(高脂血症治療薬)、ラジレス(降圧薬)、トラクリア(肺高血圧症治療薬)、プログラフ(免疫抑制薬)とは併用することができません。また、ネオーラルの血中濃度が高くなってしまうため、グレープフルーツジュースと一緒に飲むことも避けたほうが良いです。
  • 漢方薬
    2018年現在、臨床試験で一定の効果が証明されているのは「補中益気湯」と「消風散」です。補中益気湯は、東洋医学で「気虚」と呼ばれる「元気がない状態」の方に処方することでステロイド外用薬を減量できたと報告されています。消風散は、ステロイド外用薬だけでは炎症が治まらない方に併用することで効果を発揮したという報告があります。ほかの治療法では症状が落ち着かない場合には、3~6ヵ月を目安に内服してみても良いかもしれません。
  • 光線療法
    ナローバンドUVBやエキシマライトは、中波長紫外線(UVB)の中の非常に狭い波長の紫外線を照射する機器で、海外ではさまざまな皮膚炎の治療に使われています。アトピー性皮膚炎に対する効果は、これまでのUVBに比べて優れており、PUVA療法とほぼ同等です。また、発がん性に関してはPUVA療法よりも少ないとされています。
    やけどを防ぐため、最初の照射時間は短くし、だんだんと長くしていきます。あまり間をあけると照射時間を短くしなければならないため、1~2週間に1回程度の通院が必要になります。10~20回ほど照射すると、多くの方に治療効果が見られます。照射回数が多くなってくると、日焼けと同じように色素沈着を生じますが、そのほかに大きな副作用はありません。
    当院では最新型の308nmエキシマライトをご用意しております。病変部のみに照射し、短時間で治療を済ませることが可能です。>>くわしくはこちら
  • デュピクセント
    2018年4月に発売された注射薬です。アトピー性皮膚炎において炎症を悪化させたり、皮膚のバリア機能を低下させたりする原因となっている「IL-4」「IL-13」という蛋白質の働きを阻害する作用を持ちます。ほかの外用薬や内服薬では十分な効果が得られない患者さまに切り札となる薬剤ですが、高額なのが難点です。当院にはご用意がないため、ご希望の方は大病院へご紹介させていただきます。

スキンケア

炎症が起きていない状態でも、アトピー性皮膚炎の方の皮膚は乾燥し、バリア機能が低下しています。炎症を予防し、良い状態を保つためには、正しいスキンケアが必要です。

まず皮膚の清潔を保つことが大切です。花粉や汗などアレルギーの原因物質が付着していると悪化しやすく、細菌感染症を生じたりするリスクもあるため、1~2日に1回は入浴・シャワーをしましょう。ただし、熱いお風呂は皮脂を必要以上に落としてしまうため、38~39℃が適温です。また、ナイロンタオルを使ったりゴシゴシ洗ったりするのは、皮膚に刺激を与えてしまうので止めておきましょう。

お風呂上がりには、すぐに保湿剤を外用するのが効果的です。乾燥が強い方は1日2~3回外用するのが理想的です。保湿剤は市販のものでも構いませんが、添加物には注意し、刺激感があるようなものは避けてください。当院では高純度のワセリンであるプロペト、ヘパリン類似物質を含む保湿剤(ヒルドイドソフト軟膏など)、尿素を含有する保湿剤(ウレパールなど)を症状に合わせて処方しております。

悪化要因をとりのぞく

乳幼児の場合、食物アレルギーが悪化要因となっていることがありますが、近年研究が進み、アレルギーの原因物質(アレルゲン)は口から摂取するとアレルギー反応をおさえることが分かってきました。たとえ食物アレルギーがあっても、症状が出ないぐらいの少量から食べさせてあげるとアレルギーが治りやすいと言えます。逆に皮膚からアレルゲンが入るとアレルギー反応が起こりやすくなるため、口のまわりに食べ物が付いた場合にはすぐに綺麗にしてあげることが大切です。

思春期以降は、食物アレルギーの頻度が減り、直接皮膚に触れるホコリ・ダニ・花粉などが主なアレルゲンとなります。掃除をこまめにして、部屋を綺麗に保つことが大切です。揮発性の化学物質などが悪化要因の場合には、換気にも気をつける必要があります。

皮膚への物理的な刺激も悪化要因の一つとなるため、肌着類は刺激が少ない木綿(コットン)がおすすめです。また、かき傷を作らないように、爪はできるだけ短く切ることも大切です。

<文献>
(1) アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版. 日皮会誌. 2016;126:121-55.
(2) Saeki H, Tamaki K: Thymus and activation regulated chemokine (TARC)/CCL17 and skin diseases. J Dermatol Sci. 2006;43:75-84.