乾癬
乾癬とは
乾癬は、赤くカサカサした発疹が全身に出る慢性皮膚疾患です。もともと欧米に多い病気でしたが、食生活の欧米化にともない日本でも患者さまの数が増えてきています。現在、日本での有病率は1000人に1人程度と推定されています。
発音が「感染」とまぎらわしいですが、ほかの人にはうつりません。命にかかわるようなことも一般的にありませんが、人目に触れてつらい思いをされる患者さまがとても多い病気です。
私自身、大学病院では乾癬の病態についての研究を行い、乾癬学会などで発表してきました。研究を進めていく上で、乾癬の患者さまにご協力をいただくこともありました。今後はこれまでの経験を活かし、患者さまの治療に全力を尽くしてまいります。
症状
乾癬は症状により以下の5種類に分けられます。
- 尋常性乾癬(じんじょうせいかんせん)
尋常性は「普通の」という意味で、患者さまの約90%がこのタイプの乾癬です。皮膚が赤くなって盛り上がり、銀白色のフケのようなものが多量に付着します。全身のどこにでも発疹ができますが、頭・腰・肘・膝といったよく擦れる場所に発疹ができやすいという特徴があります。爪の濁りや変形を伴う場合もあります。かゆみに関しては個人差があり、ほとんどかゆみがない方もいれば、激しいかゆみを訴える方もいらっしゃいます。 - 関節症性乾癬(かんせつしょうせいかんせん)
乾癬の方の数%に関節炎を合併することがあり、関節症性乾癬と呼ばれています。手足の指の関節にもっとも多く見られますが、背骨や腰の関節にも生じることがあります。炎症を起こした関節では腫れや痛みが生じるばかりでなく、骨が少しずつ破壊され、やがて変形してしまいます。変形は始まると急激に進行することが多いため、変形し始める前にしっかりとした治療を受けることが大切です。関節リウマチに似ていますが、血液検査ではリウマチ反応が陰性の場合がほとんどです。 - 膿疱性乾癬(のうほうせいかんせん)
急激な発熱とともに全身の皮膚が赤くなり、白または黄色い膿をもった小さな発疹が多発するタイプです。全身のむくみ、関節痛、倦怠感なども見られ、多くの場合、入院による治療が必要となります。再発を繰り返すことも特徴です。 - 乾癬性紅皮症(かんせんせいこうひしょう)
発疹が全身の90%以上に広がった状態は、乾癬性紅皮症と呼ばれます。皮膚の働きが損なわれるため体温調節がうまくできなくなり、発熱や倦怠感を生じます。脱水・電解質異常・低タンパク血症などを伴う場合もあり、ときに入院が必要となることがあります。 - 滴状乾癬(てきじょうかんせん)
滴状乾癬は小児と若年者に多く見られます。風邪や扁桃炎などに引き続いて、全身に1cm程度までの小さな発疹が急速に出現します。治療により1~3か月で軽快しますが、再発を繰り返したり、尋常性乾癬に移行したりすることがあります。化膿レンサ球菌の感染が原因の一つと言われており、抗菌薬の内服により完治も望めます。
原因
欧米では40人に1人程度に見られるありふれた病気のため、さまざまな研究が進んでいますが、いまだ根本の原因は不明です。5%ほどの方はご家族にも乾癬の症状が見られるので、体質もある程度関係しているようです。乾癬が起きやすい体質に、感染症・薬剤・糖尿病・高脂血症・肥満・ストレス・外傷などの要因が複雑に関与して発症すると考えられています。
原因となる薬剤としては、降圧剤の「Ca拮抗薬」「β遮断薬」「アンギオテンシン変換酵素阻害薬」、うつ病の治療薬である「炭酸リチウム」、C型肝炎治療薬の「インターフェロン」、胃薬の「H2受容体拮抗薬」などが頻度の高いものとして知られています。
最近、原因として注目されているのは、免疫の異常です。免疫は、細菌やウイルスなどの異物から体を守る大切な働きをしていますが、なんらかのきっかけで異常をきたすと、異物ではなく自分自身に対して反応し、炎症を引き起こしてしまいます。このような免疫の異常が乾癬で起きていること、その免疫の異常にはさまざまな体内の物質が関わっていることが分かってきています。とくにTNF-α、IL-17、PDE4といったタンパク質が、乾癬の病態と強く関連していることが明らかになっており、これらのタンパク質の働きをおさえる薬は次々と新しいものが開発されています。
検査
診察だけで診断がつくことが多いですが、ほかの病気との区別が難しい場合には、顕微鏡検査や皮膚生検を行うことがあります。
治療
いまだに乾癬には根治療法がありませんが、さまざまな治療法があり、発疹のない状態を長期間保つこともできます。それぞれの治療法に長所と短所があるため、患者さまのご希望をうかがった上で、治療方針を決めさせていただきます。
また最近になり、乾癬の患者さまは肺疾患・糖尿病・心筋梗塞などの合併症が多く、乾癬の治療を行うことでそのような合併症のリスクを減らすことができる、ということが分かってきました。「外見だけの問題だから」と放っておかず、しっかりと治療することをおすすめしています。
- 活性型ビタミンD3外用薬
乾癬において治療の基本となる外用薬です。副作用が非常に少なく、併用することでステロイド外用薬による副作用も抑えられることが知られています(1)。日本では、オキサロール(マキサカルシトール)、ドボネックス(カルシポトリオール)、ボンアルファ(タカルシトール)の3種類が用いられています。
ビタミンD3外用薬は効果が見られるまで1か月ほどかかることもあるため、治療開始当初はステロイド外用薬と重ねて塗っていただくのが効果的です。発疹が改善してきたらビタミンD3外用薬のみでも良い状態を保てることが多く、症状によっては「朝はビタミンD3外用薬、夜はステロイド外用薬」や「平日はビタミンD3外用薬、休日はステロイド外用薬」というように塗っていただくのも一つの方法です。 - ステロイド外用薬
ビタミンD3外用薬と比べ、種類が多く、さまざまな強さのものがあります。強いものはビタミンD3外用薬よりも早くよく効きますが、同じ部位に長期間塗り続けると、皮膚が薄くなったり毛細血管が拡張したりする副作用を生じることがあります。当院では炎症の程度や部位に応じて最適なものを処方いたします。 - 活性型ビタミンD3+ステロイド混合薬
ビタミンD3外用薬とステロイド外用薬の2剤を日常的に外用するのは患者さまにとって負担となるため、この2剤を混合した薬が開発されています。ビタミンD3とステロイドは混合すると時間経過とともに効果が低下してしまう問題がありましたが、特殊な製法で混合することによりその問題が解消されています。
現在ドボベット(軟膏・ゲル・フォーム)とマーデュオックス(軟膏)の2種が発売されおり、どちらも1日1回の外用で効果を発揮するため、発疹の範囲が広い方にとくにおすすめです。
- 光線療法
ナローバンドUVBやエキシマライトは、中波長紫外線(UVB)の中の非常に狭い波長の紫外線を照射する機器で、海外では乾癬の治療に一般的に使われています。乾癬に対する効果は、これまでのUVBと比べて優れており、従来からあるPUVA療法とほぼ同等です。また、発がん性に関してはPUVA療法よりも少ないとされています。
やけどを防ぐため、最初の照射時間は短くし、だんだんと長くしていきます。あまり間をあけると照射時間を短くしなければならないため、1~2週間に1回程度の通院が必要になります。10~20回ほど照射すると、多くの方に治療効果が見られます。照射回数が多くなってくると、日焼けと同じように色素沈着を生じますが、そのほかに大きな副作用はありません。
当院ではナローバンドUVBとエキシマライトをそれぞれご用意しておりますので、皮疹の状態や範囲に応じてご選択いただけます。 - チガソン(エトレチナート)
ビタミンAと似た化学構造で、その効き目を強めた内服薬です。皮膚の角化を正常化させる作用があります。
副作用として口唇炎、皮膚の乾燥・菲薄化、肝障害などが起こることがあり、とくに口唇炎は半数の方に見られます。肝障害をチェックするため、3か月に1回は血液検査をしておくと安心です。また、催奇形性があるため、妊娠中またはその可能性がある女性は絶対禁止です。近い将来に妊娠を希望されている方も原則禁止です。内服中止後も、女性は2年間(男性は6か月間)の避妊が義務づけられています。 - ネオーラル(シクロスポリン)
ネオーラルは免疫にかかわるTリンパ球(白血球の一種)に作用し、異常な免疫反応をおさえる内服薬です。もともと腎移植や骨髄移植などに使用するために開発されましたが、現在ではさまざまな病気に対し、世界中の多くの国で使われています。皮膚の病気では乾癬とアトピー性皮膚炎に保険が適用されます。
副作用として高血圧と腎障害が比較的多いものの、早期に発見すればネオーラルを減量もしくは中止することで回復します。内服中は定期的に血圧測定と血液検査を受けていただく必要があります。
飲み合わせが悪い薬がいくつかあり、リバロ・クレストール(高脂血症治療薬)、ラジレス(降圧薬)、トラクリア(肺高血圧症治療薬)、プログラフ(免疫抑制薬)、スンベプラ、バニヘップ、グラジナ(C型肝炎治療薬)とは併用することができません。また、ネオーラルの血中濃度が高くなってしまうため、グレープフルーツジュースと一緒に飲むことも避けたほうが良いでしょう。 - オテズラ(アプレミラスト)
オテズラはPDE4という酵素を阻害する作用を持つ新しい内服薬で、2017年3月に発売されました。3割負担の方では14日分で約8200円と高額ではありますが、これまでの内服薬と同等以上の有効性を持ち、かつ副作用が非常に少ない薬剤です。
定期的な採血が不要のため、採血が苦手な方、副作用を気にされる方にお勧めです。また、皮膚だけでなく関節の症状にも効果を発揮するため、これまで生物学的製剤を使わざるを得なかった関節症性乾癬の患者さまも試してみる価値のある薬剤と言えます。 - 生物学的製剤
生物学的製剤とは、生体由来の物質、あるいは生物の機能を利用して製造された医薬品のことです。乾癬では現在(2023年12月)、レミケード・ヒュミラ・ステラーラ・コセンティクス・トルツ・ルミセフ・トレムフィア・スキリージ・イルミア・シムジア・ビンゼレックスの11剤が厚生労働省に承認されています。非常に高い効果が期待できますが、値段が高いことと、感染症のリスクがあることが欠点です。感染症への対応がクリニックでは難しいため、生物学的製剤による治療が望ましい患者さまは、大病院へご紹介させていただきます。
日常生活での注意点
肥満・糖尿病・高脂血症などのいわゆるメタボリック症候群が、乾癬の悪化要因の一つであることが明らかになりつつあるため、それらを予防することが大切です。すでに肥満気味の方は、食事や運動に気をつけることで、症状の改善が期待できます。
また乾癬は、摩擦などの刺激によって発疹が悪化します。入浴時はナイロンタオルを使ったり、ゴシゴシ洗ったりするのは控えましょう。皮膚が乾燥するとバリア機能が低下するため、さまざまな刺激によって乾癬が悪化する原因となります。空気が乾燥する冬季は、保湿剤を外用することも重要です。
<文献>
(1) Calcipotriol counteracts betamethasone-induced decrease in extracellular matrix components related to skin atrophy. Arch Dermatol Res. 2014;306:719-29.